2007年8月 No.111    PDF

ビタミンE 酢酸エステルの食品添加物
(保健機能食品用)としての有用性

お茶の水女子大学名誉教授、(社)栄養改善普及会会長   五十嵐 脩

要旨
今年4月の食品添加物の追加指定で、ビタミンEについてこれまで遊離型のみが使用可能だったものが、合成、天然のα-トコフェロールについて酢酸エステル型も使用できるようになった。今回の指定はかなり遅れていてもっと早く指定をされていてもいいものであったと思う。というのは、医薬品として長い使用経験があり、安全性も担保されているし、遊離のα-トコフェロールと比較して酸化されることがないので、色々な形態の食品に使っても、安定性がよいことである。なお、天然と合成の生理活性比についても、アメリカ、カナダの食事摂取基準で、2R体の活性は天然のα-トコフェロールと同じにしているが、2S体については、生理活性がヒトについては無しとしていて、日本の食事摂取基準ではこのことに触れられていないので、この点についても解説を加えた。

 ビタミンEは脂溶性ビタミンの1つで、その構造上クロマン環上にフェノール性の水酸基を持つため、発見の当初よりその抗酸化性に注目が集まっていた。天然に存在する8つのビタミンE同族体中、生理活性はα-トコフェロール(RRR-α-Toc、以下α-Toc)がもっとも高く2005年版の「日本人の食事摂取基準」では天然のα-TocのみがビタミEの生理活性をもつものとされ、それ以外の同族体の摂取量はビタミンEの
摂取量の計算には算入されなくなった。しかし、抗酸化剤として使用する食品添加物としては生理活性よりも抗酸化活性が持続する天然の植物油の精製時に取れるスカム
から精製されたγ-やδ-Tocを多く含む混合ビタミンE製品が使用されている。しかし、栄養機能食品や特定保健用食品に用いるビタミンEとしては生理活性の高いRRR-α-
Tocと合成のall-rac-α-Tocが用いられてきた。今までは、食品に使用できるのは遊離型のToc類だけであったが、今回のα-Tocの酢酸エステルの食品添加物としての使用許可(保健機能食品用)により、食品中で酸化されにくいビタミンEが栄養機能食品や特定保健用食品などに食品添加物として利用可能となった。今回使用許可されたα-Tocの酢酸エステルは酸化を受けやすいフェノール性の水酸基の部分が酢酸でエステル化されているために、食品の加工中や食品に添加され、保存中も空気中あるいは食品素材から発生する酸素や共存する鉄イオンなどの酸化促進要因で酸化され、トコフェリールキノンなどの酸化物に変化することは全くなくなることになる。つまり、酸化防止の目的で使う遊離型のビタミンEとは使用目的が異なる保健機能食品としての用途に適したビタミンEの誘導体という

ことになる。今回許可された誘導体は天然のRRR-α-Tocと合成によるall-rac-α-Tocの2種類のα-Tocの酢酸エステルである。
 この2つのα-Tocの酢酸エステルは、従来から医薬品には使用されていて日本を始め、欧米での使用経験が豊富であり、これまでのところ、ヒトへの悪影響は全く報告されてなく、安全に使用できる製品である。また、製品の安定性は両者とも変わりはなく、消化吸収時に加水分解されα-Tocを生じる。しかし、ビタミンEとしての生理活性はやや異なる。それは、生体内では天然
のRRR-α-Tocの方が、合成のall-rac-α-Tocよりも生理活性が高いためである。最近のアメリカ、カナダのDRIs、即ち食事摂取基(2000)によれば、all-rac-α-Tocを構成する2R体(重量で、総ビタミンE酢酸エステルの1/2を占める)は天然のRRR-α-Tocと同じ生理活性を持つとしているが、2S体(重量で総ビタミンEの1/2)についてはビタミンEとしての摂取にそれらを算入しないとされている。そうすれば、わが国で公式にはall-rac-α-Tocは天然のRRR-α-Tocの約3/4の生理活性をもつという従来の考えは変える必要が出てきたことになる。このアメリカやカナダの考えに従えば、
all-rac-α-Tocの生理活性は天然のα-Tocの1/2となり、重量が同じであれば1/2の生理活性ということになる。これについては、我々の研究やカナダ、アメリカのグループによる研究で2S-α-Toc体の生理活性が従来の数値よりも低いという結果が得られていて、その考え方を採用したためと思われる。以前純粋のビタミンE(RRR-α-Toc)が得られていない時代には、当時合成法で純粋な標品が得られていたall-rac-α-TocがビタミンEの標準として使われ、生物試験

 

(主にラットなどの退治吸収試験が中心)の結果などから 1mgRRR-α-Toc=1.49IU(国際単位)であると定められた。
この時の国際単位は1IU=1mg all-rac-α-Toc酢酸エステルであった。この当時の換算係数では次の通りになる。即ち、
 all-rac-α-Toc 1mg=1.10IU
 all-rac-α-Toc酢酸エステル 1mg=1 IU
 RRR-α-Toc 1mg=1.49IU
 RRR-α-Toc 酢酸エステル 1mg=1.36 IU
 1 IU==1mg all-rac-α-Toc酢酸エステル-   0.91mg all-rac-α-Toc=0.74mg RRR-α-Toc酢酸エステル=0.67mg RRR-α-Toc
である。しかし、今回改訂されたアメリカやカナダでの食事摂取基準に従えば、以下のように変更になった。(日本の食事摂取基準(2005)では合成のall-rac-α-Tocの生理活性には言及されていないので、この基準は反映されていないが、最近の研究の成果を考えることのほうが妥当)。この変更が行われた結果、国際単位という考えはビタミンEについては消滅し、RRR-α-Toc(mg)が基準にになり、これと同等の生理活性を示すものは2R-α-Tocのみとなった。なお、2S-α-Tocはすべて生理活性なしとしていて、この2S体は合成のall-rac-α-Tocの1/2を占めると考えればよい。


図1 
合成によるビタミンE(all-rac-α-トコフェロール)の構造
同一分子量をもつ8つの光学異性体(RRR-,RSR-,RRS-,RSS-,SRR-,SSR-,SRS-,SSS-)のうち、RRR-α-トコフェロールはまた、食品に天然の形で存在し、これらの構造の違いは側鎖と環の接点で起こっている。

つまり、
 1mg all-rac-α-Toc=0.5mg RRR-α-Toc=   0.59mg RRR-α-Toc 酢酸エステル
 1mg all-rac-α-Toc酢酸エステル=0.91mg all-  rac-α-Toc=0.46mg RRR-α-Toc
 1mg RRR-α-Toc=2mg all-rac-α-Toc=    1.10mg RRR-α-Toc 酢酸エステル=2.20mg
  all-rac-α-Toc酢酸エステル
である。4月26日のわが国の官報記載の文書では換算係数を上に書いた古い基準を採用しており、しかもα-TE(α-TocE, α-T等量)としているので、注意する必要がある。
 次に、栄養機能食品に合成のall-rac-α-Toc酢酸エステルを使用する際の利点について述べてみたい。生理的には、天然のRRR-α-Tocに比べて1/2の生理活性しか持たないが、酢酸エステルは普通の食品の処理加工条件では安定であり、酸化的な変化は受けない。そのため、無酸素条件のゼラチンカプセルを用いて内包する場合以外の多様な形状の商品に利用でき、特別な強いアルカリや酸処理を加えなければ、まず分解は考えられない。また、現在植物油の需要関係が逼迫しているので、将来に亘りこれまでの価格で天然のRRR-α-Toc が安定供給されるか否か予断を許さない点がある。その意味では合成によるビタミンE、即ちall-rac-α-Toc酢酸エステルの安定供給は将来に亘り不安が少ないし、天然のRRR-α-Tocに比べ、価格が安いというメリットも持っている。図1に合成のα-Tocの酢酸エステルをヒトに与えた時の血漿中の濃度変化を示した。

図2
d3-RRR-α-トコフェロールアセテートとd6-all-rac-α-トコフェロールをそれぞれ150mg投与した後の血漿中の標準化α-トコフェロール(d3,d6)の平均値±標準誤差(n=6)

参考文献
1) Dietary Rference Intakes (Vitamins C,E,Selenium,Carotenoids : Institute of Medicine,National Academy of     Press,2000)
2) Present Knowledge in Nutriton,9th Ed.,ILSI USA,2007
3) 五十嵐 脩 :ビタミンEについての栄養学的な研究ー特に生体内動態の解明についてー、ビタミン、76(2)、     51-64(2002)





『第40回ビタミン広報センタープレスセミナー』開催報告


 ビタミン広報センター(港区芝)では、ビタミン及び健康に関して正確で科学的根拠に基づいた、正しい最新の知見をマスコミの方々にいち早くお伝えし、ご理解いただくために、「VICプレスセミナー」を行っています。
 去る2007年1月17日(水)に開催した第40回VICプレスセミナーでは、関谷敬三先生(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構近畿中国四国農業研究センター特産作物機能性グループグループ長)に『オリーブ果実ヒドロキシチロソールの健康機能』をテーマにご講演いただきました。 講演概要は以下の通りです。

オリーブ果実ヒドロキシチロソールの健康機能

独立行政法人農業・食品産業技術研究機構近畿中国四国農業研究センター

関谷 敬三

はじめに
 最近、メタボリックシンドロームという言葉があふれています。生活習慣病になる 一歩手前の状態です。これらは皆さんよくご存じのように毎日の生活習慣が原因になっています。しかし逆に考えると、毎日の生活習慣に注意すれば病気を防ぐことができることも示しています。生活習慣の中でも食生活は病気の発症・予防に大きな影響を及ぼしています。以上のような背景をもとに最近、食事・食品によってメタボリックシンドローム、生活習慣病を予防しようという機運が高まってきています。
 昔から健康に良いといわれる食品は少なくありません。オリーブもそのうちのひとつで地中海型食事(地中海式ダイエット)と呼ばれオリーブ(オイル)を用いる料理が健康にいいと有名になっています。私たちは農作物の健康機能性の研究過程でオリーブの成分が健康によいことを見いだし、その成分がヒドロキシチロソールであるこ
とを特定し作用メカニズムを明らかにしましたので紹介します。

農作物の健康機能性検索
<疾病原因と機能性評価>
 私たちは農作物を主体に多くの食品について健康機能性をスクリーニングし、どのような食品に機能性が高いかを調べ、さらに有効成分の解明を行っています。この研究の過程でオリーブの成分が非常に健康機能性が高い、すなわち体に良いことがわかりました。
 循環器系疾患、炎症、アレルギー性疾患には体内の脂肪酸の一種であるアラキドン酸の代謝産物が関与していることが知られており、さらにガンにも原因物質のひとつ

としてかかわっていることが最近示されつつあります。そこで、これらの病気の予防、治療のためには原因物質であるアラキドン酸代謝産物の生成を特異的に阻害したり、またアラキドン酸代謝産物間のバランスを正常にすることなどが考えられ、実際にこのような作用のあるものが医薬品として使用されています。
 そこで循環器系疾患、炎症やアレルギー性疾患を引き起こす物質を作り出す作用のある血小板や白血球に存在する酵素に注目し、酵素活性を阻害する作用を調べました。
血小板にはシクロオキシゲナーゼと12-リポキシゲナーゼが存在し、アラキドン酸を代謝します。シクロオキシゲナーゼの経路からは血小板凝集を引き起こし血栓を作るTXA2が、また12-リポキシゲナーゼの経路からは動脈硬化やアレルギー性疾患の原因となる12-HETEがつくられます。白血球には5-リポキシゲナーゼが存在し炎症やアレルギー反応を引き起こす物質であるロイコトリエンが作られます。したがって、シクロオキシゲナーゼを阻害すれば血栓に有効であり、12-リポキシゲナーゼや5-リポキシゲナーゼを阻害すれば動脈硬化、炎症や
アレルギー性疾患に有効であろうというこ
とになります。

<機能性農作物のスクリーニング>

 私たちは100種類以上の食品についてアラキドン酸代謝酵素を阻害する効果を調べまた。酵素活性を50%阻害する食品抽出物の濃度(IC50)を求め、阻害作用の強さによって食品をランク付けしました。12-リポキシゲナーゼを阻害する活性の強いものはホウレンソウ、オリーブ、ウーロン茶葉、緑茶葉、フキ、タマネギなどからの抽出物


であり、これらはIC50が10g/ml以下でありました。中程度の活性(IC50が11?100g/ml)を持つものは、紅茶葉、シュンギク、コーヒー豆、大豆(タンバグロ品種)、シソ、ブロッコリ、ゴボウ、ナス、スモモ、ショウガ、アズキ、イチゴなどであり普段の食事にも出てくるものが多くあります。シクロオキシゲナーゼ阻害活性を示すもので強いものはウーロン茶葉、ノリ、コンブ、ヒジキ、緑茶葉、紅茶葉、アワ、ハクサイ、エビ、コンニャク、アラメ、ワカメでありました。中程度の阻害を示すものはアワ、ヒエ、コンニャク、キビ、グリンピース、オリーブ、クリ、エビ、レンコン、タコ、コンブ、コメ、ゴボウ、ミョウガ、イカ、アズキ、ヒエ、ブロッコリ、ソラマメ、グリンピース、ニガウリなどであり海産物や主食であるコメなどにも活性が認められました。
 5-リポキシゲナーゼについても検討した結果、強い阻害

活性がオリーブに認められました。しかし、12-リポキシゲナーゼを阻害する食品とは少し異なっていました(表1のデータはエーテル不溶画分のみ、他にエーテル可溶画分等も測定)。

オリーブの作用
 以上のように多くの農作物の中でも機能性の非常に優れていたオリーブについてさらに検討を加え活性成分を明らかにすることを試みました。地中海諸国では脂質の摂取量が多いにもかかわらず、動脈硬化などを含む心疾患の罹患率が例外的に低いことが報告されています。低い罹患率の原因としてオリーブオイルの摂取が指摘されており、オレイン酸が豊富な脂肪酸組成やオイル以外の成分に関心が持たれています。スクリーニングの結果オリーブのオイル以外の成分が炎症、アレルギー、動脈硬化などに関与して

表1 食品抽出物(エーテル不溶画分)による5、12-リポキシゲナーゼとシクロオキシゲナーゼの阻害

多価不飽和脂肪酸と生活習慣病との関わり

佐伯栄養専門学校 非常勤講師 平原文子

 いる5-リポキシゲナーゼと12-リポキシゲナーゼを阻害する強い活性を持つことがわかりました。そこで、この活性成分をオリーブ果実から精製単離することにしました。最終的に単一にした活性成分の化学構造を決めたところヒドロキシチロソール(3, 4-ジヒドロキシフェニルエタノール)であり、この物質はオリーブオイル中にも油以外の主要な成分として含まれていることがわかりました。また、ヒドロキシチロソールは他のオリーブ成分よりも細胞内への浸透力が高いことから細胞実験では阻害作用がはるかに強いこともわかりました(図1、表2)。摂取したオリーブ(オ
イル)中のこの成分が体内でリポキシゲナーゼを阻害することで心疾患予防に関与していることが示唆されます。
 また、このヒドロキシチロソールは抗酸化性が非常に優れ、動脈硬化の原因となる悪玉コレステロールであるLDLからさらに悪化した酸化LDLになるのを強力に防ぐことも分かりました。このヒドロキシチロソールの作用はオリーブ成分のオレウロペインよりも100倍以上強力でありました。
 他の食用油についても検討しましたが、大豆、菜種、コーン、紅花などは溶媒抽出され精製されたオイルであることからここで述べたような機能性は全くありませんでした。
また、オリーブオイルといってもいろいろなタイプがあるのは皆さんもよく知っているところですが、有効成分を最も多く含んでいるものはエキストラ・バージンオリーブオイルです。そして、オイルの精製が進むにつれて機能性は低下することもわかり、ひとくちにオリーブオイルといっても機能性には大きな違いのあることがわかりました。
オリーブオイルの特徴はその採油法にあり、機械的あるいはその他の物理的な方法だけで採油したものがバージンオ

リーブオイルと決められています。この方法だと果肉に含まれる微量成分がオイルに溶け込んだ状態になっていて機能性の発現に大きな役割を果たしています。このオリーブオイルの独自の採油法が健康機能性維持に大きく貢献していると考えられます。一方、水分を含む絞りかすにはオイルに含まれるポリフェノールなどの成分がオイル中より多く含まれヒドロキシチロソールも例外ではありません。

図1 多形核白血球における内在性ロイコトリエン産生に及ぼすオリーブ成分(抗炎症作用)
オリーブに特徴的なポリフェノールの化学構造


表2 5-リポキシゲナーゼに対するオリーブ関連物質の阻害作用の比較


おわりに
 近年、体内のアラキドン酸代謝が亢進した状態になっており、それが原因で生活習慣病や炎症、アレルギー性疾患の増加が起こっていると考えられています。その亢進の要因のひとつとして、油脂の摂取量増加が指摘されています。

そこで、オリーブ果実中に見いだしたヒドロキシチロソールなどの機能性に富む成分の摂取を心がけるならば、炎症やアレルギー、生活習慣病などの予防に役立つことが期待されます。

 


農作物によるアラキドン酸代謝酵素の阻害と健康機能
アラキドン酸・・・・・・・体内に存在する脂肪酸の一種
リポキシゲナーゼ・・・・・アラキドン酸から病気の原因となるロイコトリエンやHETEを作り出す働きがある酵素
シクロオキシゲナーゼ・・・アラキドン酸から病気の原因となるトロンボキサンを作り出す働きがある酵素
ロイコトリエン・・・・・・・アレルギーや動脈硬化を引き起こす物質
トロンボキサン・・・・・・血栓を引き起こす物質



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