2000年5月 No.99

食環境は脳機能にどのような変化を与えるのか

─ビタミンC欠乏が惹起する脳への食成分透過性の異常─

高知女子大学     生活科学部     教授    川村  美笑子 

川村 美笑子氏


〈要旨〉
    脳への栄養物質の取り込みは血液脳関門(blood brain barrier、以下BBB)を通じて行なわれる。BBBの特殊機能によって脳機能は正常に保たれているが、この関門が損傷されれば脳に不変の環境を作り出すことは困難になり、その機能の低下につながる。生体が異常な状況に陥った場合、BBBの機能が変化し、通 常では通過しない食物成分が脳内に輸送され、脳機能に影響を及ぼしていると推定される事例も知られてきており、いわば食環境に由来する複合要因が脳に与える影響を明らかにする研究が進められている。
    ここでは、食環境因子として、ビタミンC(アスコルビン酸)を例に、血液脳関門の完成した脳でも、食事性栄養因子、特に体内で合成されない必須の微量 成分の変動が、BBBの状態変化を介して脳機能にまで影響を与える可能性を明らかにした知見を紹介する。 

    栄養と脳の発達との関係については、脳細胞の数が増加する時期および細胞の大きさが増大する時期に低栄養状態が脳の機能に及ぼす影響について、エネルギー代謝やタンパク質、脂質、ビタミンなどの栄養素との関係を中心に多くの実験的研究がなされてきた。一方、完成した脳においては、脳機能の代表でもある神経情報伝達系の機能に関する多岐にわたる研究が展開されており、老化や性別などの生理的因子の他に、諸種の嗜好性食品も、その量によっては神経受容体の機能変化をひき起こすことが明らかになりつつある。
    脳への栄養物質の取り込みは血液脳関門(blood brain barrier, 以下BBB)を通じて行なわれる。この関門は、簡単に物質を通すわけではなく、脳細胞の機能に悪影響を及ぼす有害物質が脳内に入ることを阻止し、しかも栄養素など必要な物質は通すという特殊機能で脳機能を正常に保っている。BBBは他の臓器の血管とは異なり、血管の内皮細胞が密着結合で接合されている。その他に、脳室と呼ばれる空洞を取り囲む脈絡叢と呼ばれる血管系(血液脳脊髄関門:blood cerebrad spinal fluid barrier, 以下BCSFB)があり、ここには密着結合が存在しないか、疎である部分もある。食欲のコントロールを担っている視床下部もこの例である。BCSFBの総面積はBBBの約5千分の1と見積もられていて、ここを通じての物質の供給は少ないと思われるが、選択性は存在するので考慮しなければならない。これらの関門が損傷されれば脳に不変の環境を作り出すことは困難になり、その機能の低下につながる。 
    BBBは、脳の恒常性を保持するために重要な役割を果たしており、これに関する研究が展開されているにもかかわらず、脳疾患に対処するための薬物の中枢神経へのデリバリーにとっては、大きな障壁になっていたり、神経機能変性メカニズムの解明においても、多くの場合、薬物による神経細胞死を伴うために、細胞死にまで到らない脳機能の変化をとらえることを困難にしている。BBBは、ストレスやアシドーシス(体液、血液が酸性化した状態、激しい場合は意識障害なども起こる)、内因性の活性酸素、フリーラジカルなどの環境因子によって影響を受けることがわかっているが、栄養因子による影響も予想される。

    アスコルビン酸(AsA)は脳にとっても必要な栄養素であり、脳の関門を通過する。脳に入ったAsAの挙動については、最近、ラット脳内のAsAの存在は一様ではなく局在することが報告されているが1)、2)果たして食物摂取パターンの変動、すなわちAsA欠乏食の摂取に伴って生体側の脳のAsA分布や機能は変化するのであろうか。遺伝的にAsAを合成できない遺伝的アスコルビン酸合成不能ラット(ODSラット)のAsA欠乏および回復過程における脳のAsA量を経時的に調べている。成長期のODSラットをAsA欠乏食で飼育すると、AsA欠乏症状である体毛の粗雑化は2週目に確認されるが、AsA欠乏によって起こる組織中AsA量の低下にいたる時間がそれぞれ異なる。たとえば、血清中では0.5週目で、肝臓中では1週目で減少する。大脳皮質全組織では、1.5週目まで変動は緩やかであるが、3週目では対照の3%まで減少する。同じ大脳でも大脳皮質細胞間では、0.5週目で対照の22%まで減少し、その後穏やかに低下する。脳においては細胞間に比べ細胞内のAsA酸量の低下は穏やかであり、何らかの調節が行なわれていると思われる。 


 
    さて、生体におけるAsA酸の作用として、抗酸化作用、補酵素作用、神経調節因子などが知られている。特に、脳においては、ドバミンからノルアドレナリンへの代謝酵素であるβ−ヒドロオキシターゼの補酵素として重要な役割を担っている。したがって、AsA酸が欠乏すると、神経伝達物質の代謝や受容体の機能に様々な変化の起こることが予測される。事実、ODSラットを3週間、AsA酸欠乏食で飼育すると、線条体においてはドバミン代謝の低下が、また大脳皮質においてはセロトニン代謝の亢進が起こり、それに伴い各種受容体の結合能が変化する。この状態で、AsA酸を投与すると、その濃度は脳細胞間および全組織、血液中において対照とほぼ同等にまで回復し、神経機能も回復する。以上の事実は、食物摂取パターンの変動が中枢神経系にまで影響を与えることを示すよい例である。またこの例から、この程度のAsA酸欠乏では神経細胞死までには到らないことがわかる。
    AsA欠乏ラットにおける脳組織の形態的変化を観察すると、先に述べた神経伝達系の変化をよく支持するものである。即ち、神経細胞の活動の有無やその程度、神経細胞の異常、細胞脱落などの判定に用いられるニッスル小体(神経細胞)の変化が認められる。
    脳内への物質の移行に重要な役割を持つ脈絡叢では、神経細胞の逆行変性(膨らみ)が観察される。脳質脈絡叢の組織学的な変化も認められることから、脳内への物質の透過性の変化も考えられる。生体微量元素の脳内への透過性をオートラジオグラフィにより評価すると、通常はBBBがあるためにゆっくりと、しかも少しずつしか脳内に移行しない金属元素の脳内への取り込みは増大する。特に、脳質においてその取り込みがより顕著であり、また、大脳皮質、海馬でも取り込みが大である。このようにAsA欠乏状況で脳内への透過性が変わることから、脳血管の損傷が起きている可能性も高いと予測される。実際、AsA欠乏ラット大脳皮質の毛細血管の電子顕微鏡像では、密着結合のゆるみ、基底膜周辺、上皮細胞の空砲等、脳血管の損傷が認められる。
    BBBを通過する栄養因子の一つとしてAsAを取り上げ、AsAの摂取パターンの変動に伴う脳内変化を紹介したが、逆の場合、すなわち、BBBを通過しない栄養因子によるBBBの機能変化を推測させる例もある。植物由来の神経興奮性アミノ酸は、脳内に直接投与する動物実験からグルタミン酸のアゴニストとして神経興奮性の作用を有することが分っているが、通常はBBBのため脳内へは移行しない。AsA欠乏ラットに神経興奮性アミノ酸を腹腔内投与すると2時間後3時間以内にラチリズム*3),4),5)すなわち、神経症状を示すが対照ラットでは何ら変化を示さない。
神経症状を呈したラットでは、歩行がとまり、体の震え、脚の麻痺などが認められる。これは、AsA欠乏によるBBBの損傷、あるいは機能変化により神経興奮性アミノ酸が脳に移行したためと推測される。このような症状は、開発途上国の低栄養の状態にあるヒトでもこの成分を含む食用鑑賞用に栽培されている豆を食した場合に実際に認められる。豆に含まれるラチリズムの原因物質3-N-オキザリルー1,2,3-ジアミノプロパン(ODAP)は、神経受容体に直接作用し、その結果遊離してきた亜鉛と強いキレートを形成し、亜鉛欠乏をひき起こす。亜鉛はグルタミン作動性シナプスにおいて神経刺激とともに放出され、グルタミン酸による神経伝達の強度を調節しているといわれており、ラチリズムの患者では、血液中の亜鉛濃度の減少がみられる。亜鉛欠乏となった脳では、過度の神経伝達が生じ機能障害を誘発するのであろう。

    以上、AsA欠乏が、神経伝達系の異常に加えて神経細胞の形態的変化もひき起こすこと、また、脳への透過性の変化はAsA欠乏により脳血管が損傷を受け、このことを介して血液脳関門が機能変化をおこしていること、を明らかにした筆者らの研究の一端を紹介した。
    脳は他の臓器に比較して、恒常性が最もよく維持されているところであるが、アスコルビン酸欠乏により引き起こされる脳機能の変化は、血液脳関門の完成した脳でも、食事性栄養因子、特に体内で合成されない必須の微量成分の変動が、BBBの状態変化を介して脳機能にまで影響を与える可能性を明らかにした例だと考えている。

    ヒト脳の異常老化に伴う老人性痴呆症など、脳疾患の増加は、21世紀に日本が直面する大きな問題でもある。今後、BBBに対する環境因子、とりわけ日々の食生活と直結する栄養因子の影響について、脳機能との係わりをさらに追究することが必要であるが、消化・吸収を考慮に入れたうえで脳やその他の臓器がどのような影響を受けるか、また脳への物質の通過にあたって個々の物質間でどのような相互作用を示すかなど、複合効果のメカニズムの解析が期待される。

    共同研究者の井戸達雄教授(東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター核薬学研究部 東北大学大学院薬学研究科機能分子動態学分野兼任)に深甚なる感謝を申し上げる。

*Lathyrus stalivisの種子を食べて起こる運動機能障害で、歩行困難、起立困難、けいれんなどの症状を伴う。 


〈参考文献〉

1)Stanford, J. A., Zygmunt, L. K., Julian, M. : Brain Res., 299, 289-295(1984)
2)Wilson, J. X. : J. Neurochem., 53, 1964-1071(1989)
3)Spencer, P. S. et al. : Lancet,U, 1066-1067(1986) 
4)Haque, A. et al. : Bangl. J. Neurosci., 7, 60-71(1991)
5)Lambein, F. et al. : Toxicon., 132, 461-466(1994)


 
 
 

日焼けによる黒化防止製品の効力測定 

(エフ・ホフマン・ラ・ロシュ社 社内資料)
はじめに
    美白化粧品や美白クリームは、色素沈着を抑制するほか、紫外線(UV)により誘起される黒化の防止も謳っている。通常のサンスクリーン剤は、効力を日焼け止め指数(SPF)として表示している。SPFは、その製品を皮膚に均一に塗布した場合、皮膚に紅斑や浮腫などの炎症(サンバーン)を起こさずに日光を浴びていられる時間が何倍になるかを消費者に示すものである。これに対し、美白化粧品には黒化防止力の量的表示がない。このため、消費者にとってはどの程度黒化から防護されるかの目安がなく、また、黒化防止力に基づいて市販の美白クリームを比較することもできない。
    黒化防止力は、添加する紫外線吸収剤の濃度だけでなく、UVA(長波長紫外線)吸収剤とUVB(中波長紫外線)吸収剤の組合せや賦形剤にも大きく左右される。黒化を引き起こすUV作用スペクトルも、太陽光線スペクトルも判明している。最高の防止力を得るためには、紫外線吸収剤の組合せをこの2つのスペクトルの組合せに一致させなければならない。
    この黒化防止指数は、SPF(Sun Protection Factor;日焼け止め指数)でさまざまな製品のUVB防護力を比較できるのと同様に、さまざまな黒化防止製品の効力を量的に比較する手段である。黒化防止指数は、美白クリームの美白作用を示すものではない。しかし、黒化防止をせずに美白をしても無意味である。戸外に出なくても、いつも日陰にいても、黒化は起こる。なぜなら、UVAは高い割合(80%)で窓ガラスを透過し、また、日陰にいても反射・散乱したUVAが皮膚に達するからである。したがって、すべての美白化粧品は黒化防止のための紫外線吸収剤を含有すべきであり、その防護力の程度を表示すべきである。

測定方法
    サンスクリーン剤による黒化防止力の定量化のために開発された方法は、UVB防護力を表示するSPFの測定法をもとに作成されている。サンスクリーン剤を塗布していない皮膚を照射し、ヒトの皮膚に黒化を引き起こすために必要な最低線量を測定する。次に、黒化防止製品をヒトの背中の他の部位に2mg/cm2の濃度で塗布し、15分間乾燥させ、UVA量が30%ずつ異なる6通りの線量により同様に照射する。測定は、GCP(医薬品の臨床試験の実施に関する基準)に基づき、ヒトに対する臨床検査に関する世界保健機構(WHO)の行動規範に従って行った。各ボランティアについて個別に症例報告用紙(case report form; CRF)に記入する。

照射条件
    400Wの金属ハロゲンランプ(Philips製、HB853型)を用い、UVC(短波長紫外線)をすべて除去するためにWG320型フィルターを併用する。ランプから皮膚までの距離は、照射強度が約180mJ/cm2となるように調整する。被験者の背中の均一性によって、6つの検査範囲に印をつける。各範囲の正確な照射強度を測定し、1スポット当りの照射時間の計算に用いる。被験者の背中にテンプレートを置く。テンプレートには、各検査範囲ごとに6個の小さなフラップがあり、各照射スポットを覆う。各1cm2の6つのスポットに、UVA線量をスポットごとに30%ずつ増加させて照射する。 

黒化防止指数(TPF)の計算
    黒化防止製品で防護された部位の皮膚に黒化を引き起こす最低線量を、防護されていない部位の皮膚に黒化を引き起こす最低線量で除した値が黒化防止指数(tanning prevention factor)である。
 
TPF= 防護されている皮膚に
おける最低黒化線量 
防護されていない皮膚に
おける最低黒化線量

考察
    ヒトの皮膚のさまざまな色調は、メラニン、ヘモグロビン、カロテノイド、及び角質層の状態の組合せにより決まる。赤色は酸化ヘモグロビンという血色素によるものであり、黄色はカロテノイドという色素、青色は静脈中の還元ヘモグロビン、そして主要な茶色はメラノサイトで産生されるメラニン色素の存在によるものである。表皮の基底層には、メラノサイトと、基底ケラチノサイトがおよそ1対4から1対10の比率で存在する。1個のメラノサイトは、およそ36個のケラチノサイトにメラニン色素を供給する。メラノサイトとケラチノサイトとのこのような関係は、表皮メラニン単位4と呼ばれている。
メラノサイトで産生されたメラニン色素は、メラノソームという顆粒に入ってケラチノサイトへ輸送される。メラノソームは、樹状突起によりケラチノサイトへ輸送される。これは、皮下注射針を使って注射をする過程と非常によく似ている。黒人のメラノソームは白人より大きく、これが皮膚色の違いの一因であろう。さらに、褐色の皮膚をもつ人々のメラノサイトの方が活発でメラニン色素の産生量が多く、また、褐色の皮膚をもつ人々の表皮では、メラニン色素が酵素によって還元されない。

    メラニン形成の初期段階は、チロシナーゼという酵素により制御されている。チロシナーゼはチロシンを酸化して3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(ドーパ)とし、さらにドーパキノンとする。ドーパキノンは、環化や酸化重合などの一連の複雑な反応により転化され、最終的にユーメラニンが形成される。システインやグルタチオンのSH基が利用できるときはシステイニルドーパが形成され、急速に酸化されてベンゾチアジンとなり、さらにフェオメラニンとなる。
    ユーメラニンは、褐色の皮膚や黒い毛髪に見られる茶褐色のメラニン色素である。フェオメラニンは、赤い毛髪に見られる赤黄色の色素である。ヒトの色素沈着は、主に2つのメカニズムにより調節されている。体質性色素沈着とは、紫外線その他の刺激物質の影響に通常さらされることがない体の部位における個人の遺伝的素因に基づく色素沈着のレベルである。条件的皮膚色素沈着とは、主要因子である紫外線、またはホルモンにより誘起される黒化である。
    紫外線(日光)による黒化には、2つの反応が関与している。第1の反応は即時型反応で、UVAに曝露されてから数分以内に起こり、最長2時間にわたり持続するもので、既に形成されていたメラニンを光酸化することを特徴とする。遅延型反応はUVA及びUVBの両方に反応して起こり、開始は第1の反応よりはるかに遅く、曝露から2〜24時間後になって初めて顕在化する。この遅延型反応により、活動するメラノサイトの増加、メラノソーム産生の亢進、メラニン形成の増加が起こる。また、ケラチノサイトの増殖や、メラノサイトからケラチノサイトへのメラノソームの輸送も増加する。 
    また、紫外線はチロシナーゼの合成も刺激する。 

図1 作用スペクトル

    図1は、太陽の紫外線スペクトル及びさまざまな作用スペクトルを示す。太陽スペクトルは、晴れた夏の日(7月)の正午に北緯55度の地点で測定されたものである。紅斑の作用スペクトルは、CIE(国際照明委員会)の基準作用スペクトルである。黒化の作用スペクトルはParrish & Rosen(1990)が測定したものである。このような作用スペクトルは皮膚のタイプに非常に大きく左右される。これらの曲線は概算値にすぎないが、生理的刺激やある種の損傷を防止するために紫外線防護剤が作用すべき波長の概念をよく表している。
    黒化防止は、一般的な日焼け防止とは異なる。通常の日焼け防止は、紅斑を防止する効力により評価される。黒化の作用スペクトルは紅斑の作用スペクトルとは異なるので、この2つの目的に向けた最適の紫外線吸収剤の組合せも異なる。地表面に到達する全紫外線放射のうち、UVB放射は約20%(21.1 W/m2)に過ぎず、80%(85.7 W/m2)はUVA放射であることを考慮しなければならない。
UVB放射に対する防護力はSPFで表される。さまざまな方法6が利用可能であり、また、プロトコールはみな確定された擬似太陽光線スペクトルを用い、相違点は主に結果の統計処理、被験者数、塗布範囲の大きさにとどまるので、比較も可能である。我々は、SPFに類似の方法で、UVA放射からの防護力を量的に評価し、それによって皮膚の黒化防止力を量的に評価する方法を開発した。 

    照射に用いたUVAスペクトル(図2)は、400Wの中圧金属ハロゲンランプを線源とする。UVBはフィルターにより除去する。V型皮膚(インド系皮膚)の場合、黒化を誘起する最低線量は20〜30 J/cm2の単位である。この線量は、通常10〜20分で得られる。ランプの強度は通常の日光の約5倍である。 

図2 BM-DBM濃度とTPFの関係

結論
図2は、紫外線吸収剤の濃度(BM-DBM)とTPFの比例関係を示す。これは、典型的なw/o型乳化剤を用いて得た結果である。これ以外の製法では絶対値が異なる可能性もある。この乳化剤は、BM-DBMのほかUVB吸収剤(オクチルメトキシケイ皮酸塩及びoctocrylene)も含有する。TPF3は、バンコクで直射日光を4〜5時間浴びることにだいたい相当する。この方法は、さまざまな黒化防止製品の量的比較およびサンスクリーン剤の黒化防止力の量的評価を可能にする。 

 
 

経口避妊薬(ピル)と栄養C 

(Nutritional Concerns of Women より)
葉酸の栄養状態に及ぼす害
    経口避妊薬(ピル)は、葉酸もしくは葉酸塩と、ビタミンB12の体内代謝を阻害するというデータがある。しかし、そのようなデータを否定する研究報告もある。どのような生化学的指標を用いたかにかかわらず、このような不一致が生じていることにより、混乱や議論も起きている。     葉酸に関する栄養状態を評価するための検査として用いられることが多い臨床的・生化学的指標は、次のとおりである。
(1)巨赤芽球性貧血及び頚部異形成の発病
(2)血清及び赤血球葉酸値
(3)尿中ホルムイミノグルタミン酸(FIGLU)排出量
(4)ポリグルタミン酸の腸内吸収量
    ピルに起因するとされる巨赤芽球性貧血の症例は、多数報告されている。このような症例には、軽度の吸収不良症候群や食事性葉酸欠乏症などの寄与因子が関連している場合もあり、そのような因子が存在しない場合にも巨赤芽球性貧血が起きていたかどうかは明確でない。ピルの使用と葉酸に関する栄養状態との関係に関する文献には不一致が見られる。ピルを使用している女性は、使用していない女性よりも血清葉酸値が低いという報告もあるが、統計学的な差は見られなかったという報告もある。赤血球葉酸値(血清葉酸値よりもすぐれた生化学的指標であり、組織中の代謝をよりよく表す)を用いて栄養状態を評価した場合にも対立が見られる。赤血球葉酸値を微生物学的技法により測定した研究では、ピルを服用している女性群の平均赤血球葉酸値の方が対照群より有意に低かったという報告が多数ある。しかし、統計学的な差が示されなかった研究もある。
    ピルが葉酸に関する栄養状態に及ぼす影響については、現在も相反するデータが存在するが、大多数の報告は、赤血球葉酸値の低下と尿中FIGLU排出量の増加が並行して起こると同時に、血清葉酸値も低下するという見解を支持する傾向がある。FIGLUはヒスチジンの中間代謝産物であり、さらに代謝されるためには葉酸の還元体を必要とする。Shojaniaは、ヒスチジン負荷後の尿中FIGLU排出量について、ピルを使用している女性の方が対照群より尿中FIGLU排出量が有意に多く、ピルの使用を中止すると2〜4ヶ月以内に正常値まで低下することを示した。このような尿中FIGLU排出量の増加が、ピルにより葉酸が欠乏するために起こるのか、妊娠初期のような生理状態にあるために起こるのかははっきりしない。妊娠中もFIGLUの排出量は増加する。
    ピルによる葉酸代謝障害のメカニズムは、実験動物でもヒトでもよくわかっていない。ピル使用者では、日常の食事から摂取する葉酸塩と治療用のビタミン剤に含まれる葉酸とで腸内吸収量に差があるということが、いくつかの治療報告で明らかに示されている。食事中に含まれる主要な葉酸源であるポリグルタミン酸は、吸収する前に小腸で酵素により結合を分解しなければならない。Streiffが報告したピル使用女性の諸症例では、ポリグルタミン酸とモノグルタミン酸との間に利用量や吸収量の差が示された。 
    当初は、ピルによる葉酸結合分解酵素の活性阻害と、その結果としてのポリグルタミン酸含有葉酸の吸収不良ということにより、葉酸代謝障害は十分に説明されると考えられていた。しかし、その後に行われた報告では、ピル使用者におけるポリグルタミン酸含有葉酸の吸収不良や、ピルが葉酸結合分解酵素に及ぼす阻害作用は認められなかった。妊娠中のホルモン変化によりポリグルタミン酸の吸収が選択的に変化することはないことから、経口合成エストロゲン及びプロゲストーゲンが、少なくとも葉酸の腸内吸収に関する限り、天然に存在するホルモンとは異なる様態で作用する可能性があることが示唆される。
ピルの使用に関連した葉酸代謝障害については、別のメカニズムも提案されている。ピル使用者は尿中葉酸塩排出量が増加するが、このことは妊娠中の女性についても報告されており、これがピル使用者の血清及び赤血球葉酸値が低いことの一因となっている可能性もある。

ビタミンB12の栄養状態に及ぼす害
    ピル使用者は、微生物学的定量 法によっても、放射性同位元素を用いた定量法によっても、有意に低い血清ビタミンB12値を示すことが報告されている。この現象の背後にあるメカニズムの説明は困難である。血清ビタミンB12値が正常値以下に低下する場合もあるが、このことは必ずしも組織中ビタミンB12の枯渇を示すデータ(真の欠乏症の徴候)と結びついていない。しかし臨床医は、ピルにより血清ビタミンB12値が低下させられているのかどうかを確かめるため、患者に一時的にピルの服用を中止することを提案する場合もある。血清ビタミンB12値の低下の原因がビタミンB12吸収不良であるという可能性を排除するためには、シリング試験(放射性標識物質の吸収率を検定する方法)が行われるのが通 常である。我々が現在行っている、TriphasilRを服用している若齢女性群を対象としたビタミンB12その他の栄養素に関する縦断的(6月経周期)研究の結果 の概要を表に示す。血液標本は全被験者について月経周期の同じ時期に採取したにもかかわらず、平均血清ビタミンB12値は26%低下していたが、その差は有意ではなかった(データの分散が大きいことによる)。
    吸収不良のほか、血清ビタミンB12値の低下について提案されている説明としては、腎排出機能の亢進、ビタミン結合性物質の産生の減少がある。Hjeltらは、高精度の全身測定法を用いてビタミンB12の吸収量 と排出量を測定した。この研究のOC使用者には食事性欠乏症の者はいなかったので、吸収量 及び排出量が正常であったという結果から、ビタミンB12の貯蔵量 は正常であることが示された。この結果は、シリング試験の結果が正常であったこと、並びにメチルマロン酸(ビタミンB12に関する栄養状態を示す生化学的指標)の赤血球値及び尿中排出量 が変化しなかったことを示した他研究と一致する。
    血清ビタミンB12値の低下は、血清中ビタミンB12結合性物質の不足に関係がある可能性が非常に高い。実際に、ピルは白血球により合成される糖タンパク質であるトランスコバラミンI(TCI)の産生を阻害する。この結合タンパク質は、飽和度70〜100%であり、ビタミンB12の組織への輸送には不可欠でなく、それよりも血漿へのビタミンB12の輸送に関係している。ピル使用者の血清総TCI値については、低下しているという結果 や、有意な変化はないという結果が出ている。ビタミンB12の約90%がTCIに結合していることから、TCI値の低下は血清ビタミンB12値の低下の一因となる可能性がある。トランスコバラミンU(TCU)は、β-グロブリンの一種であり、90〜95%が不飽和であるが、組織へのビタミンB12輸送に大きな役割を果 たす。Larsson-Cohnは、ピルの投与によりビタミンB12に対する組織の結合活性が上昇し、さまざまな組織コンパートメント間でビタミンB12の再分布が起こると示唆した。Shojania & Wylieによると、TCUはピルによる影響を受けないので、そのようなことが起こる可能性は低いという。


 

 
 
 

加齢黄斑変性(AMD)とルテインA

(Nutritional and Environmental Influences on the Eyeより)

 
介入試験 
    残念ながら、ルテインまたはゼアキサンチンは消費量に限りがあるため、ヒトを対象とした介入試験結果は得られていない。現在行われているAge-Related Eye Disease Study(AREDS)でもカロテノイドは用いられていない。関連のある微量栄養素を用い、眼科学的パラメーターを研究している4つの介入試験を表に示した。
    現在のところ、ゼアキサンチンを用いた介入試験データは動物での研究のみである。これはウズラに3ヶ月間、対照群にはカロテノイドの入っていない飼料を、試験群には3R,3'R-ゼアキサンチンを5mg/kg含有飼料を投与する研究を行った。網膜に発光性の障害を与えるため、白光(3200lux)を28時間断続的に照射した。暗くしてから14時間後、両眼の網膜中のゼアキサンチンをHPLCにより、またアポトーシスをTUNEL染色により測定した。桿体と錐体の光受容体細胞におけるアポトーシスの数が、カロテノイド含有資料を摂取したウズラの方がカロテノイド非摂取群よりも劇的に減少していた。さらにHPLCにより測定される網膜中のゼアキサンチンが多く含まれていれば、防御されるようである。これは光障害の予防における、ゼアキサンチン効果についての、最初の予備的な臨床実験である。
以前の研究では、サルにおいて、黄斑色素の減少やドルーゼの増加などの光障害が、5年間の低カロテノイドの食餌により増加した。

〈参考文献〉 

1)Crary EJ, Antioxidant treatment of macular degeneration of the aging and macular edema in diabetic retinopathy, South. Med. J., 80, 38, 1987. 
2)Teikari JM, Laatikainen L, Virtamo J, Haukka J, Rautalahti M, Liesto K Heinonen OP, α-tocopherol and β-carotene in age-related macular degeneration, Invest. Ophihalmol. Vis. Sci., 36 (Suppl.), S9, 1995.
3)Age-related Macular Degeneration Study Group, Multicenter ophthalmic and nutritional age-related macular degeneration study-part 2: antioxidant intervention and conclusions, J. Am. Optom. Assoc., 67, 30-49, 1996
4)AREDS (Age-related Eye Disease Study), Manual of procedures, National Eye Institute, Bethesda, MD, 1992.


 
 
〈学会情報〉
●3rd Asian Conferenceon Food Safety and Nutrition October 3-6, 2000, Beijing, China
日本国際生命科学協会(ILSI-Japan)  TEL:03-5215-3535
ビタミン広報センター(略称 VIC)は、国内外に於ける最新のビタミン研究の成果 を科学的に正確に保健、栄養関係者および消費者の皆様に提供しております。当センターは1981年に設立されました。
大田区大森北1−6−8 〒143-0016 Tel(03)5763−4119 Fax(03)5763−4121