2001年7月 No.103

ロシュ・ビタミン・ジャパン(株)・ビタミン広報センター共催セミナー
「ビタミンと循環器疾患予防」開催報告日本ビタミン学会第53 回大会を主催するにあたって

去る平成13 年5 月8 日、9 日に「ビタミンと循環器疾患予防」をテーマに、ビタミンの日制定記念、ロシュ・ビタミン・ジャパン梶Eビタミン広報センター共催セミナーが東京・大阪にて開催されました。セミナーでは、近年注目をあつめてきた血中ホモシステインとB 群ビタミンとの関連について、高知県衛生研究所の森山ゆり先生に、またビタミンC と脳卒中罹患リスクとの関連について日本での20 年間の調査結果をもとに、東京医科歯科大学難治疾患研究所の横山徹爾先生にそれぞれご講演いただきました。また、エフ・ホフマン・ラ・ロシュ社(スイス)より来日したディートリッヒ・ホーニッグ博士からは、ビタミンと疾病
予防との関連についてビタミンC を中心にご講演いただきました。各講師の公演内容を以下にご紹介いたします。
 

血中ホモシステイン・葉酸・ビタミンB12 と動脈硬化との関連

高知県衛生研究所 森山 ゆり

元気で健やかな高齢社会の実現のためには、一人一人が自らの判断で1 次予防に重点を置いた健康づくり対策を進めることが大切な時代

高齢化が全国に比して15 年も先行する高知県では、働き盛りの男性の突然死、寝たきりや痴呆の原因となる循環器疾患(心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患)の入院患者数は全国の2 倍であ
り、県民の生活の質の向上、医療費や介護保険負担の軽減の為にも一層効果的な予防対策が急務です。

心筋梗塞や脳卒中・痴呆などのより効果的な対策はあるのでしょうか?

生活習慣病(がん、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、高血圧など)は、毎日の生活習慣と密接に関わりがあり、生活習慣(食生活、運動、休養など)が改善されることで、多くの病気の発病や進行を予防することが出来ると言われています。

ホモシステインが動脈硬化の新しい危険因子として注目されています

近年、ホモシステインが心筋梗塞や脳梗塞の新しい危険因子として注目されています。ホモシステインは食事中の蛋白質に含まれるメチオニンがシステインに代謝される際に生成される中間代謝産物のアミノ酸です。血中のホモシステインの値が高くなるとホモシステインは自己酸化を起こし、酸化過程において生じた過酸化水素やスーパーオキシドラジカルなどの酸化ストレスが内皮細胞障害を起こし動脈硬化が起こりやすくなると言われています。ホモシステインの代謝には葉酸、ビタミンB12 、ビタミンB6 が関与しています。

高知県衛生研究所では地域住民を対象として、血中ホモシステイン・ビタミンと動脈硬化との関連を検討し、血中ホモシステインが上昇しないような対策を取ることによって、動脈硬化性疾患の予防に役立てようとしています。

ホモシステインが高いグループでは頸動脈硬化の有所見者が多い

高知県地域住民の高齢者男性を対象にホモシステインと頸動脈硬化との関連を検討した結果、ホモシステインが高いグループでは、頸動脈硬化の有所見者が多いことが分かりました。

動脈硬化性変化の有無別の関連因子の比較

頸動脈硬化の関連因子の分析

Malinow らは、血漿ホモシステインの最上位の5 分位は、最下位の5 分位に比べて、肥厚した頸動脈壁を持つ確率が3.15 倍になることを報告しています。また、Selhub らは、血漿ホモシステインが14.4 μmol/L 以上の者は、9.1 μmol/L 以下の者に比し、25 %以上の頸動脈狭窄を持つ確率が2 倍になることを指摘しています。

1997 年、Sutton- Tyrrell らは血漿ホモシステインの高値が高齢者の収縮期高血圧と関連していること、血漿ホモシステイン値は正常血圧群のみにおいて動脈硬化症の危険因子であったことを報告し、1999 年我々の研究においてもOkamura らが同様に血漿ホモシステイン値は正常血圧群のみにおいて動脈硬化症の危険因子であったことを報告しましたが、さらに研究を進め、全集団においてもホモシステイン値の上位25 %群の下位25 %群に対する頸動脈硬化を有する確率は有意に高く、従来の危険因子である加齢、低HDL コレステロール、糖尿病、高血圧に加え、ホモシステイン高値は動脈硬化の危険因子であることが明らかになりました。また、血中の葉酸とビタミンB12 の低値は、ホモシステインの上昇を介して頸動脈硬化に関与する可能性が示されました。

ホモシステイン値は、葉酸、ビタミンB6 、B12 などの食事性因子と関連することが指摘されており、これらの摂取量を増やすことによってホモシステイン値を低下させることが可能であると推測されます。

*ご協力を戴きました野市町役場健康福祉課、大阪府立成人病センター、(現大阪府立健康科学センター)の皆様方、ご指導を戴きました滋賀医科大学の岡村智教先生、筑波大学の磯博康先生、大阪府立成人病センターの北村明彦先生、金沢大学の稲津明広先生、梶波康二先生、馬渕宏先生に深謝致します。

本研究は平成9 年度大同生命厚生事業団「地域保健福祉研究助成金」、平成11 年度大和証券ヘルス財団「調査研究助成金」、平成12 年度公益信託高知新聞・高知放送「生命(いのち)の基金」から研究助成を戴きました。ここに深謝致します。
本研究は高知県知事への職員提案「動脈硬化性疾患予防対策研究事業」の一環として行われました。

  


 

血清ビタミンC 濃度と脳卒中罹患リスク

東京医科歯科大学難治疾患研究所社会医学研究部門・疫学 横山 徹爾

―共同研究者―

伊達ちぐさ(大阪市立大学医学部公衆衛生学) /松村康弘(国立健康・栄養研究所健康栄養情報・教育研究部 /小久保喜弘(国立循環器病センター集団検診部)/田中平三(国立健康・栄養研究所)/
吉池信男(国立健康・栄養研究所健康栄養調査研究部)

〈背景と目的〉 これまでの国内外の疫学研究によって、野菜・果物からのビタミンC摂取量が多い者では、脳卒中罹患および脳卒中死亡リスクが低いことが示唆されている。また、近年のコホート研究において、血漿ビタミンC濃度が高い者では脳卒中死亡リスクが低いことが報告されている。しかし、どのような機序によってビタミンC が脳卒中と予防的な関連を示すのかは明らかになっておらず、いくつかの仮説が提唱されているだけである。そのうち、最も広く受け入れられている仮説は、「抗酸化仮説」であろう。即ち、強力な抗酸化物質であるビタミンC は、LDLの酸化を妨げることによって動脈硬化の進行を防ぎ、その結果として脳卒中を予防するという仮説である。この他にもいくつかのメカニズムが仮説として提唱されているが、このような仮説を検証するにあたって、ビタミンC と脳卒中罹患の関連を病型別に解析することは重要な知見をもたらすと考えられる。例えば、ビタミンC が主に動脈硬化性疾患である脳梗塞罹患と予防的関連を示し、動脈硬化とはほとんど関係のない出血性脳卒中(脳出血・クモ膜下出血)とは無関連ならば、抗酸化仮説を支持する根拠となるであろう。一方、もしもビタミンC が脳梗塞罹患と出血性脳卒中の両者と関連していたならば、抗酸化仮説だけではなく、他の仮説をも考慮する必要が生ずるであろう。しかし、ビタミンC 摂取量と脳卒中罹患リスクとの関連を病型別に明らかにした疫学研究は数えるほどしかなく、いずれも主に食事調査によるビタミンC 摂取量推定の困難さから、十分な検討が行われていない。そのため血液中のビタミンC 濃度と病型別脳卒中罹患との関連をコホート研究によって調査することが望まれるが、そのような研究はこれまで皆無である。本研究では、20 年追跡のコホート研究により血清ビタミンC 濃度と脳卒中罹患リスクとの関連を病型別に明らかにし、上記のような仮説を吟味するために必要な知見を得ることを目的とする。

〈対象と方法〉 対象とベースライン調査:新潟県新発田市A- I 地区(果樹・米作を中心とした農山村地域)の40 歳以上の全住民を対象として、1977 年に、血清ビタミンC 濃度測定等の血清生化学的検
査、食事調査、身体活動度調査、心電図、身長、体重、血圧測定等の循環器健診(ベースライン調査)を行った。このベースライン調査の受診者数は、男性998 人(受診率84 %)、女性1360 人(93 %)であった。このうち、血清ビタミンC 濃度の測定が行われ、かつ脳卒中既往歴がない男性880 名、女性1241 名を本研究の解析対象とした。血清ビタミンC 濃度測定は、随時採血の静脈血を直ちに遠心分離して血清を- 20 ℃で凍結した後、10 日以内に2,3- dinitrophenylhydrazine 法により行った。野菜と
果物の摂取頻度は栄養士が面接して聞き取り、それぞれ0- 2,3-5,6- 7 日/週の3 カテゴリーに分けた。
追跡と脳卒中罹患の把握:1977 年7 月から1997 年6 月まで、病型別脳卒中の新規罹患を脳卒中登録システムと毎年の健診等により把握した。また、同期間中の死亡・転出も確認した。脳卒中の病型は、標準化された臨床診断基準に基づいて、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、分類不能脳卒中に分けた。また、CT 画像が得られたものでは、臨床所見よりもCT 所見を優先して病型分類を行った。
解析:脳卒中の病型は、脳梗塞と出血性脳卒中(脳出血・くも膜下出血)の2 つに大別して分析を行った。ベースライン時の血清ビタミンC 濃度と他の変数との関連は、性年齢調整偏相関係数、共分散分析により解析した。脳卒中罹患リスクは、Cox の比例ハザードモデルを用いて、性年齢調整および多変量調整の相対危険で表した。その際、血清ビタミンC 濃度は四分位数で4 つの群に分けて、第1 四分位を基準とした相対危険を計算し、量反応関係を確認するためにトレンドP 値も示した。

〈結果〉
ベースライン調査:血清ビタミンC 濃度は、男性よりも女性で高く、高齢者ほど低かった。性年齢調整した解析で、血清ビタミンC 濃度と収縮期・拡張期・平均血圧との間にr=- 0.1(p<0.001 )程度の弱い負相関があった。血清総コレステロールとの相関はごく弱い(r=0.054 )ものであった。また、野菜・果物の摂取頻度が多い者、身体活動度が高い者、飲酒量が少ない者、降圧薬非服用者で、有意に血清ビタミンC 濃度が高かった。
リスク分析:追跡期間中に全脳卒中196 例、脳梗塞109 例、出血性脳卒中54 例(=脳出血38 例+くも膜下出血16 例)の新規罹患が確認された。ベースライン調査時の血清ビタミンC 濃度の第1 四分位を基準として、第2 、第3 、第4 四分位の性年齢調整相対危険(ハザード比)は、全脳卒中で順に0.93,0.72,0.59 (トレンドP=0.002 )、脳梗塞0.71,0.59,0.51 (トレンドP=0.015 )、出血性脳卒中0.89,0.75,0.45 (トレンドP=0.013 )であり、ベースライン時の血清ビタミンC 濃度が高い者ほど、全脳卒中、脳梗塞、出血性脳卒中に罹患するリスクが低かった(図1a )。さらに性年齢に加えて、平均血圧、血清総コレステロール、BMI 、心房細動の有無、降圧薬服用の有無、虚血性心疾患既往歴の有無、身体活動度、喫煙、飲酒で調整しても、これらの関連は大きくは変化しなかった(図1b )。野菜の摂取頻度が0- 2 日/週の者を基準とすると、3- 5 、6- 7 日/週の者の性年齢調整相対危険は、全脳卒中で順に0.56,0.42 (トレンドP=0.008 )、脳梗塞0.72,0.42 (トレンドP=0.013 )、出血性脳卒中0.51,0.56
(トレンドP=0.562 )であり、全脳卒中・脳梗塞と有意な負の関連を示した(図2a )。同様に多変量で調整するとこれらの関連は少し弱まり、全脳卒中のみが有意となった(図2b )。果物の摂取頻度と脳卒中罹患との関連は明らかではなかった。

〈考察〉
本研究は、血液中のビタミンC 濃度と脳卒中罹患との関係を病型別に分析した世界で初めての報告である。非常に興味深いことに、血清ビタミンC 濃度が高い者では脳梗塞のみならず出血性脳卒中のリスクも低かった。これまで広く受け入れられている抗酸化仮説単独では、脳梗塞との関連を説明することはできるが、出血性脳卒中との関連は説明できない。従って、ビタミンC と脳卒中との関連を説明するためには、抗酸化仮説に加えて他のメカニズムも考慮しなければならないであろう。例えば、ビタミンC は血圧を下げることによって脳卒中のリスクを下げるのかもしれない。本研究も含めてこれまで多くの疫学研究によって血中ビタミンC 濃度が高い者ほど血圧が低いことが報告されており、高血圧は脳梗塞・出血性脳卒中共通の危険因子であるから、この仮説によって、ビタミンC と脳卒中の関連を部分的に説明できるであろう。また、身体活動度が低い者では血清ビタミンC 濃度が低く、出血性脳卒中のリスクが高かったことから、身体活動度が交絡要因になっている可能性もある。あるいは、ビタミンC それ自体は脳卒中を予防する作用はなく、単に他の栄養素やライフスタイルのマーカーになっているに過ぎないのかもしれない。つまり、ビタミンC の主要な摂取源である野菜や果物には、カリウム、マグネシウム、カルシウム、食物繊維、カロテンなどが豊富に含まれており、ビタミンC ではなくてこれらの栄養素が脳卒中を予防するのかも知れないし、また、過去の研究から身体活動度が低い者、喫煙者、
過剰飲酒者は野菜や果物の摂取量が少ないことが報告されており、このように好ましくないライフスタイルを有する者では血中のビタミンC 濃度が低く、そのためビタミンC と脳卒中との負の関連が観察されるのかも知れない。しかし、これらのメカニズムは、どれをとってみても単独では本研究で観察された血清ビタミンC と全脳卒中・脳梗塞・出血性脳卒中との強い負の関連を説明するには不十分と思われる。結局、ビタミンC は、抗酸化仮説、血圧低下作用、身体活動との交絡、そしておそらくまだ明らかになっていない未知のメカニズムの組合せによって、脳卒中罹患リスクと逆の関連を示すのであろう。
本研究の欠点の一つとして、血清ビタミンC 濃度測定がベースライン調査時に一回だけ行われ、その後20 年間の個人内変化が考慮されていないという点がある。ベースライン調査受診者のうち862 名を4 年後に再び同じプロトコルで調査したところ、同一人物のベースライン時と4 年後の測定値の相関係数は、血清ビタミンC 濃度0.54 、果物摂取頻度0.21 、野菜摂取頻度0.27 、収縮期血圧0.64 、拡張期血圧0.59 、血清総コレステロール0.53であった。栄養疫学の研究では、自由に社会生活を営んでいる
人々において、数年の間隔をおいて2 回測定した値の相関係数が0.5 〜0.7 であれば、1 回測定であってもそれは個人の長期間の平均的な値を比較的良く反映したものであると考えられており、また、相対危険が20 年間を通じてほぼ一定であったことからも、一回測定の血清ビタミンC 濃度によって、長期間の脳卒中罹患リスクを分析することは妥当な方法であると考えられた。野菜・果物の摂取頻度と脳卒中罹患との関連が血清ビタミンC 濃度ほど明らかでなかったのは、再現性が悪いためかもかも
しれない。

〈結論〉
本集団では、血清ビタミンC 濃度が低い者は、その後の全脳卒中、脳梗塞、出血性脳卒中の罹患リスクが高かった。このような高リスク者をどのように管理すれば脳卒中罹患リスクを下げることができるのか、今後、介入研究によって確認して行く必要がある。

心血管系疾患予防におけるビタミンC の役割
エフ・ホフマン・ラ・ロシュ社 ディートリッヒ・ホーニッグ

  人口の高齢化は年々深刻な問題となっています。高齢化とともに、非感染性疾病、生活習慣病(慢性疾患)の増加や健康管理コストの増加が目立ってきました。生活習慣病が活性酸素による酸化が大きな原因であることはよく知られています。活性酸素種としては、一酸化窒素やオゾン、お酒、紫外線、たばこなどがあげられます。これらの影響により、神経性疾患、老化、ガン、心疾患、白内障、加齢黄斑変性などの疾病が発症するのです。ヒトにはこれら活性酸素の攻撃に対する防御機構として、スーパーオキシドディムスターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなどの酵素が備わっていますが、ビタミンC やビタミンE 、カロテノイドなどの抗酸化物質による防御機構も重要な役割を果たしています。これらの抗酸化物質は食事やサプリメントから摂取できます。

本日は抗酸化物質の中のビタミンC に焦点をあて、これまでの研究結果をご紹介致します。

まず、疫学的証拠ですが、Eichholzer らは血漿中ビタミンC 濃度が0.5mg/L 以下では心血管系疾患による死亡率が増加することを、またNyyss o nen らはフィンランド人を対象にした調査で低ビタミンC 濃度(11.4 μmol/l あるいは0.2mg/ml 未満)は冠血管系心臓病の危険因子となることを証明しました。

Western Electric Company Study ではビタミンC 摂取量と死亡率との関連が報告され、Duffy らの研究では、高血圧治療におけるビタミンC の効果について報告されました(図1 )

さらに冠動脈系心疾患による死亡率の減少(Losonczy,1996 )や、アテローム性動脈硬化進行の抑制(図2 )などには、ビタミンE との併用により、より効果のあることが証明されました。

以上のように様々な研究が行われてきた結果、生活習慣病予防には食生活が大きく関わっていることがわかりました。今後高齢化が進むなか、各個人による予防が重要になってきます。各栄養素の役割を認識し、積極的に抗酸化栄養素の摂取などを心がけていただきたいです。

 
 

食事摂取基準検討委員会 公開研究会


「食事摂取基準の歩み」開催報告主催:(社)日本栄養・食糧学会、食事摂取基準検討委員会
協賛:ILSI- Japan 、ビタミン広報センター、明治乳業(株)
日時:平成13 年5 月7 日 於)京都国際会館
エフ・ホフマン・ラ・ロシュ社 ディートリッヒ・ホーニッグ

 

ビタミン推奨摂取量の最近の動向
エフ・ホフマン・ラ・ロシュ社 ディートリッヒ・ホーニッグ

栄養所要量(RDA )は1943 年にアメリカのNRC によって初めて公表された。その目的は「国家の存続と関連する国民の適切な栄養状態の維持のために役立つ基準を示すこと」であった。その後、RDA の利用目的は広がりを見せ、現在では、食品の供給計画及び調達、食品の摂取調査結果の解釈、栄養表示の根拠としても利用され役立っている。

近年にいたって、より多くのビタミンの役割についての科学的な証拠が発見され、多くの諸国で、専門家達がこれらの科学的証拠に基づいた推奨量について統括的な報告をしている。USFNB (アメリカ食品栄養審議会)はビタミンの必要量の評価に関して新しい取り組みを確立した。その新しい取り組みとは主にビタミンに関する分子レベルでの基礎研究、疫学調査、生化学的研究そして臨床試験についての新しい報告に基づくことである。この新しい考え方はパラダイム変動を起こした、そして欠乏症(臨床的な徴候や状態によって認められたもの)予防のための栄養素の必要量だけを取り入れるのではなく、最適な健康に貢献し、生活の質を高める(心血管疾患・ガン・眼疾患・骨粗鬆症のような生活習慣病〈慢性疾患〉のリスクを低減させるという評価ができる機能的なパラメーターによって評価される)ための栄養素の必要量ということにある。DRIs (Dietary Reference Intake :食事摂取基準)は各栄養素についての集合的な用語であり、欠乏症予防から生活習慣病〈慢性疾患〉のリスク低減への役割の可能性にわたる範囲をカバーしている。新DRI は多くの情報を基に、特にヒトに関するデータに力点をおいて、まとめられた総説の結果として出来上がったものである。DRI は4 つの指標から構成されている。これら各構成要素の定義は下記に示す。

推定平均必要量(Estimated Average Requirement EAR ):その集団における50 %の人が必要量を満たすと推定される1 日の摂取量
栄養所要量(Recommended Dietary Allowance RDA ):特定の年齢層や性別集団のほとんどの人(97 〜98 %)が1日の必要量を満たすのに十分な摂取量
適正摂取量(Adequate Intake AI ):観察的あるいは実験的に決定した健常人集団別の栄養推奨
摂取量に基づくもの。AI は個人の栄養素摂取量の目標である。AI はRDA を求める科学的データが不十分な場合にはRDA の代わりとして考えられる。
許容上限摂取量(Tolerable Upper Intake Level UL ):ほとんど全ての人の健康状態に副作用をおこさない1 日当たりの最大摂取。UL 以上の摂取は、副作用のリスクを増加させる。

アメリカの他に、いくつかの国(ドイツ/オーストリア/スイス、フランス、日本、中国)が最近新しい所要量を発表し、その他の国では現在進行中または検討準備段階である(例;オーストラリア、オランダ、東南アジア諸国,北欧諸国)。許容上限摂取量は現段階では、アメリカ、日本、中国のみで設定されている。ドイツ、スイス、オーストリア、フランス、日本、中国、韓国、アメリカ/カナダにおいての最新の評価報告を以下に示す

  • 特定のビタミンにおける生活習慣病(慢性疾患)リスク低減の役割についての認容度が増加。例えば、心血管疾患におけるビタミンC,E の役割、ビタミンE による前立腺ガンのリスク低減、ホモシステインによる心血管疾患のリスク低減に対するB 群ビタミン(葉酸、ビタミンB6 、B12 )の役割
  • ビタミンC の栄養所要量増加::ドイツ/オーストリア/スイス(100mg/日);フランス(110mg/日);アメリカ/カナダ(75- 90mg/日);日本(100mg/日)、韓国(70mg/日)、中国(100mg/日)
  • 喫煙者に対するビタミンC 所要量の付記事項(増加):ドイツ/オーストリア/スイス(+50mg/日)、フランス(+15mg/日)、アメリカ/カナダ(+35mg/日)
  • ビタミンE の栄養所要量増加:アメリカ/カナダ(15mg α-トコフェロール/日);ドイツ/オーストリア/スイス(15mgα- トコフェロール当量/日);中国(14mg α- トコフェロール当量/日)
  • 葉酸の栄養所要量増加:ドイツ/オーストリア/スイス、アメリカ/カナダ(400 μg 葉酸*1/日まで);韓国(新しく設定250 μg 葉酸*1/日);中国(新しく設定400 μg 葉酸*1/日)
  • ビタミンK の栄養所要量増加:アメリカ/カナダ(最大 男性120/女性90 μg/日);中国(新しく設定:120 μg/日);日本(新しく設定 男性65/女性55 μg/日)
  • ビタミンA の栄養所要量は僅かに減少(アメリカ/カナダ:最大 男性900/女性700 μg/日)。レチノール当量表示の導入;食事由来β- カロテン12 μg はレチノール1 μg に相当、β- カロテンの食用油製剤(添加されたβ- カロテン)2 μg はレチノール1 μg に相当。 食事中のβ- カロテン以外のプロビタミンA 活性のあるカロテノイド(α- カロテン、β- クリプトキサンチン)は24 μg でレチノール1 μg に相当。
  • 推奨量の一部をサプリメントから摂取することを推奨(アメリカ/カナダ;ドイツ/オーストリア/スイス):
    - 高齢者のビタミンB12 (アメリカ/カナダ:強化食品やサプリメント摂取を推奨;ドイツ/オーストリア/スイス:萎縮性胃炎の高齢者はサプリメントで100 μg/日を摂取)
    - 妊娠可能な年齢の女性には、神経管欠損リスク低減のためにサプリメントからの葉酸摂取を追加(400 μg 葉酸*2/日)
  • アメリカ/カナダ、日本、中国は、食品、強化食品、補助食品などからの摂取を長期継続しても副作用が起らない最大摂取量であるUL (許容上限摂取量)を表示ドイツ/オーストリア/スイス、韓国はUL を設定しなかったが、テキストの中でビタミンの安全性についてコメントしている
  • 日本と中国は初めて全てのビタミンの所要量を設定した。

各国のRDA 委員会もまた、知見との格差を少なくする、推奨量の満足できる評価ができる、そして各栄養素の許容上限摂取量を設定するために、さらに必要な研究が何かについて丹念に調査された。
その結果主な研究領域が下記のように提案された。

  • 明らかな健常人における平均必要量を評価するための研究
  • 乳幼児、小児、成人、妊婦あるいは授乳婦に必要な栄養素に関する研究
  • バイオマーカーの確立を含むある種の慢性疾患のリスク低減における栄養素の役割に関する、より多くの確証を積み上げていくための研究
  • 特定の栄養素の生物学的利用性(バイオアベイラビリティー)に関する研究

今、各国政府機関は、現在確立されていない「いわゆる強化食品や栄養補助食品」に表示されているビタミン含有量の表示について、その根拠となっているRDA 表示を再評価における法的な骨格にこれらの新しい科学的根拠に基づいた推奨量を取り込むことを検討している。欧州委員会SCF (食品科学委員会:
Scientific Committee on Food )とイギリスのMAFF (イギリス農水省:Ministry of Agriculture 、Fisheries and Foods )の内で現在、特別専門家ワーキンググループがビタミンとミネラルの安全性を評価している。最終報告書が今年の終りに公表される予定になっている。この報告書には栄養補助食品や食品への栄
養強化に関する法律やこれらの製品の栄養素含有量の表示の根拠としてそれぞれのUL に関する項目も含まれている。

*1 :原文ではFolate ;欧米では通常、食品由来の葉酸を示している。
*2 :原文ではFolic acid ;欧米では通常、合成法で製造された葉酸を示している。

 

第六次改定日本人の栄養所要量に関する基本的な考え方と問題点
東邦大学医学部附属大橋病院 教授 橋詰 直孝

はじめに
栄養所要量は栄養指導や給食計画等多くの場面で活用されており、国の健康増進や栄養対策の基本となるものである。すなわち、国民の健康増進や栄養状態を望ましい方向に位置づけるための一つの指標であり、世界各国で策定されている。日本人の栄養所要量は食糧事情や生活様式などの生活環境の変化に伴い、あるいは国民の体位ならびに健康状態にしたがい、さらに医学、栄養学等学問の進歩に基づき、約5 年ごとに見直しを行い、改定されてきた。今回は1999 年6 月23 日に厚生省から第六次改定日本人の栄養所要量の発表があった。(第六次改定日本人の栄養所要量―食事摂取基準〈第一出版、1999年〉参照)

基本的な考え方
今回の改定では、国際的動向を踏まえ、「食事摂取基準」という新たな考え方を導入した。食事摂取基準は、健康人を対象として、国民の健康の保持・増進、生活習慣病予防のために標準となるエネルギーおよび栄養素の摂取量を示すものである。

問題点
日本栄養・食糧学会に食事摂取基準委員会が設けられており、第六次改定栄養所要量の問題点について各分科会座長から提言がだされているが、ビタミンについての問題点は以下の通りで、今後の検討課題である。
1 )ビタミンA の許容上限摂取量は低すぎないか。
2 )ビタミンD の成人での所要量は日本では2.5 μg であるが米国では5 μg で、骨粗鬆症の予防を目的としている。少なくはないか。
3 )葉酸の成人での所要量は日本では200 μg であるが米国では400 μg である。これは動脈硬化症の危険因子であるホモシステインの血中濃度を抑えるためには400 μg が必要であるのが理由で、日本は低すぎるとの批判が米国、ドイツからも上がっている。
4 )ビタミンC の所要量は米国で2000 年5 月に報告があった。それによると成人男性90mg 、女性75mg で許容上限摂取量は2000mg であった。日本では性差がなく100mg とし許容上限摂取量は設けていない。所要量の算出は日本では平均必要量から算出しており、米国は平均必要量を用い
ていない。国際的な検討が必要である。
5 )母乳量は第五次改定の時に850mg で第六次改定では750mg を基にしている。日本でもう一度母乳量、母乳中のビタミン含量について検討する必要はないか。

参考)サプリメントアドバイザー制度について
近年蔓延している生活習慣病は、食生活の影響が大きい。このため、健康の保持・疾病の予防などに効果のある食品が多くの人から求められている。しかし、いわゆる健康食品についての情報は、テレビ・新聞・雑誌などのマスメディアにより日々発信されているが、作用の前提となる科学的根拠、普遍性、安全性、医薬との関連などの情報は不十分であり、消費者は個々に流される情報に右往左往せざるを得ないのが現状である。また、サプリメント(Supplement )は食物(Food )と薬(Medicine )の中間に位置付けられているMedical Food であると考えている。したがって効果もあるが副作用も無視できない。そこで、サプリメントの情報提供期間の創設や資格(専門家)制度の創設が必要となった。
サプリメントは食物(食品)と薬どちらの企業も関与している。したがって非営利団体である日本臨床栄養協会に日本サプリメントアドバイザー認定機構を創立させた。

1 .目的と役割
サプリメントアドバイザー制度の目的は、国民(消費者)への啓蒙である。サプリメントアドバイザーはそのための手段に過ぎない。しかし、国民への啓蒙のためにはこれからは欠かせない存在である。国民がサプリメントを使用する際、自己責任に基づいて使用せねばならない。しかし、情報が散乱している
今日、正しい判断をするのは難しい時代でもある。そこで、サプリメントアドバイザーは国民が公正で正しい判断が出来るよう手助けをする役割を担うことになる。そのためサプリメントアドバイザー自身が公正で正しい判断が出来る知識と技術を修得せねばならない。

2 .サプリメントアドバイザーに対する教育プログラム
施設により多少の差はあるが、臨床栄養の知識、食品の安全性、サプリメントに関する情報と法規などの必須科目と基礎的な知識の選択科目に要約出来そうである。

3 .認定のポイント
サプリメントアドバイザーの質を確保するためには試験制度は必要である。試験は公正であり世界に通用するものでなければならない。また、一度試験に合格しても学問の進歩は早いので更新制度も必要となる。

 

ルテイン/ゼアキサンチン摂取とAMD
(The Eye Disease Case- Control Study:Seddon ら,JAMA 1994;272:1413- 1420 )

本研究では失明につながるAMD (Age- related Macular Degeneration:加齢黄斑変性症)と、カロテノイド、ビタミンA,C,E との関連を調査した。

対象:
AMD 患者356 人:平均年齢71 歳(55 〜80 歳)
対照520 人:平均年齢68 歳(55 〜80 歳)

方法:
食品摂取頻度調査により摂取栄養素量を算出し、抗酸化栄養素摂取とAMD 罹患への相対リスクとの関連を調査した。喫煙やその他の危険因子についても多重ロジスティック回帰分析(multiple logistic- regression analysis )を用い解析を行った。

結果:
カロテノイド高摂取はAMD リスクの低減と関連があった。AMD の他の危険因子を調整後、カロテノイド最高摂取群は最低摂取群と比較するとAMD の罹患リスクが43 %低値であった(オッズ比0.57 、95 %信頼区間0.35 〜0.92 、P=0.02 )。各カロテノイドについて解析すると、β- カロテンとルテイン/
ゼアキサンチン摂取量とAMD のリスク低減との間に強い関連が観察された(表1 )。また、喫煙による影響を図1 に示した。ルテイン/ゼアキサンチン最低量摂取群+現在の喫煙者は最高量摂取群+非喫煙者と比較するとAMD 発症リスクが約6 倍であった。